la vie est merveilleuse!

ふと思いついたことの徒然をゆっくりと

Mr.Lawsonのこと

本降りの雨の中、なすこともなく家にいる。
もう朝から3杯目のコーヒーだ。


以前にも少し書いたが
なぜか思い出されたので、10歳ばかり年下の真っ黒な彼のことを書こう。
アメリカで元気にしているだろうか。


もう40年以上前
まだ不動産業界に入ったばかりの頃
資格を取るために街場の不動産屋に勤めていた。
そんな時に部屋を探しにきた黒人男性
2m近い高身長で黒々とした肌に白い歯。
掌はピンク色で黒くないことを初めて知った、笑
お金がある方ではないので、風呂なしのアパートを借りた。
貸主の承諾も得て契約を終えて引っ越して行った時に
家人のお婆さんが夕闇の中の黒人の青年を見てびっくり仰天。
黒ンボになんて貸さない、と泣いて騒ぎ出した。
法的には契約を終えた彼に住む権利がある。
しかし、なお騒ぐお婆さんを見て
あろうことか社長は、出て行ってくれるよう説得しろ、と言い出した。
家主の肩を持つ、というわけだ。
確かに街場の不動産屋にとっては
一見の貧しい借主よりは、大家の方が価値がある。
心優しい青年は説得に応じた。
お婆さんの驚く気持ちもわかります、と。
が、行き場を無くした青年はスーツケースひとつ抱えて途方に暮れていた。
こんな時間にこれから部屋探し、なんて絶対無理だし
ホテルに泊まるお金も工面し難い彼の状況。
店頭で頭を抱える彼と連帯保証人。
夜が深くなるばかりだ。


義を以てせざるは勇無きなり、なんちて😅
とりあえず今日は私の家においで、と彼に言った。
明日考えよう、と。
さあびっくり仰天する周囲、笑
社長も、大丈夫か?って。
ならどうしろ、と?
目の前で困っている人がいて、誰も何も言わないのに?
よく決心してくださった、と感謝する付き添ってきた保証人の年配の男性。
彼の大学の教授だという。
部屋が見つかるまで、と家に泊めていたが、やはり奥さんや娘さんが嫌がって
出てってもらってくれ、と毎日せめられていたとか。


タイミングもよく
当時の同居人の彼がちょうど出張で3年ほど家を空けていたので
空いている2D Kの一部屋を彼に使わせた。
そこから私と彼の長い部屋探しの旅が始まった、笑
私は毎日あちこちの貸主、不動産屋に電話をして部屋を探したが
黒人、というとそれだけでまず断られた。
中には、良いと思うけど色は濃い系?薄い系?と聞かれ
真っ黒に近いと言うと、あ、ダメだね、と言う不動産屋もいた。
白人OK、黒人NO thank you
人種差別は死語ではなかった。


彼は私の家から大学の研究室に通い、
夕方、私の勤務先に寄って二人で家に帰った。
彼と連れ立って歩いていると、よく二度見された、笑
朝は毎日、彼が簡単な朝食を用意してくれた。
乱雑だった台所も綺麗に整えてくれた。
システマチックではない、と笑って。
彼の専攻は建築工学。東京大学の大学院に通う研究生だった。
朝、食事の用意をしてくれてダイニングテーブルの向こう側に立つ彼は
毛布を肩からかけて、テレビで見たことのあるマサイ族のようだった。
テレビを見ているといろんな質問を受ける。
アメリカとの比較も話してくれた。
格好いいし、優しいし、エスコートもしてくれて
同居はそれなりに楽しかった。
唯一、体臭がきついのだけには閉口した。
綺麗好きなので毎日シャワーを浴びているから不衛生ではない。
彼自身の持っている臭いなのだろう。
テーブルを挟んでいてもなお臭う。
慣れるまでは吐きそうなくらい😅
臭い、と言ったら失礼だと、一生懸命我慢した。
外国人は体臭を消すために香水を使う、とか聞くけど、使ってよお、笑


1ヶ月後、ようやく部屋が見つかり、彼は出て行った。
その後彼は、何回か、わざわざ一人暮らしの私の部屋を
元気ですか、と訪ねてくれた。
一緒にご飯を食べよう、と。


やがてバブルを迎え
日本人の感覚も変わり、
六本木では黒人を連れてクラブに行くことが大流行りになり
彼は恐ろしいほどにモテたらしい。
風呂なしのアパートで暮らす純朴な青年には全くの想定外。
六本木に行くだけでモデル並みの女性が群がってきた、という。
彼自身も手足も長く、人目を引く体型で、頭も良い。
東京大学大学院に通う研究生、は一種のブランドだ。


私のいた会社のVIP待遇の地主の息子に
遊び人の三流モデルがいた。
都内に広大な土地を持っているだけの元百姓(失礼🙇)。
それでもその土地の価値は大いに物を言う。
その息子と彼が、たまたま私のいた会社を通して知り合った。
金のある息子にとって、彼は女性を呼ぶための格好のアクセサリーだった。
息子は彼を好んで遊びに連れ歩いた。
あいつを連れていると女に不自由しない、と周囲に吹聴していた。
息子の金で豪遊し、女性にチヤホヤされる毎日。
真面目な研究生だった彼も普通の20歳代の青年だ。
夜毎の六本木の享楽はそんな青年を変えてしまうには十分だったのだろう。


そして数年後、
六本木の夜に染まって遊び回った彼は
家賃を滞納し、相談にきた保証人と私の前で
項垂れていた。


彼は道半ばにしてアメリカに帰って行った。



M r .Lawson
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