la vie est merveilleuse!

ふと思いついたことの徒然をゆっくりと

メッシー君(古っ、笑)

10年近く前になるが、当時メッシー君がいてくれた。
私は60歳代半ば、彼は50歳代後半。
昨夜その彼の訃報を聞いた。


彼とは、行きつけの小さな雀荘で何度か同卓したことがあった。
ある日、雀荘の外で待っていて
しつこく付き纏わないから(笑)、食事とか付き合って、と言われた。
どちらかというとシャイな彼の精一杯のお申し出。
麻雀も上手だし、教えてもらえるかな、なんて軽い気持ちで受けた。
食事くらいなら、ね。
それからは、ほぼ毎日私のお店に閉店近くになるとやってきて
閉店作業を手伝い、食事に誘い出してくれた。
二人で食事をして、その後雀荘へ、というパターン。
お店でも、お客さんの知るところとなった。
よく来てるけど、誰なの?・
麻雀仲間のメッシー君、笑


若い頃、彼のお家はエクステリアの卸をやっていて裕福だったそうだ。
でも、倒産してしまい、大学を中退して働いてきた、と言っていた。
付き合い始めた頃、
奥さんがパートで働いている、とは聞いていた。
既婚者。
ここで引き返せよ?
わがままな私の辞書に、それは無かった。
行ってみたいお店へ連れて行ってくれる彼は便利だったし、
それ以上でも以下でもない。
先に進む気は全くないし。


彼の車はボロボロの軽だったので、そのせいか店に車を置いて私の車を運転して行った。
いつもよれよれのTシャツに膝丈のパンツ、サンダル。
薄くなった髪の毛。
自身も、自分の容姿はほぼ諦めていたようで身なりは全く意に介してはいなかった。
でも、剽軽な人で話は面白いし、一緒にいても飽きなかったし、親切だったし。
食事の後は行きつけの雀荘、がお定まりのコース。
地元で有名なお寿司屋さん、イタリアンレストラン、フレンチレストラン
行きたいというお店は必ず連れていってくれた。
一番高いお店は、恵比寿のシャトーレストラン、ジョエルロブション。
二人で優に10万円を超えた。
彼はカードを持っておらず現金で払った。
数千円のお釣りがあるが、彼が、いらない、と言うと
メーテルドールは、ありがとうございます、と即答。
そう、このメーテルドールさんに会いたくて、私はこのレストランに行った。
当時、コンテストで優勝して世界一のメーテルドールとしてテレビに出ていたのだ。
へえ、お釣り即座にもらうんだ、と思った。
ちなみにドレスコードがあるので、いつもの服装はダメよ、と言ったら
そんなもの、持ってねえよ、と言っていた彼は、
当日、おじさんから借りてきた、とジャケットと革靴を用意してきた。


美味しいというお寿司屋さんでは、カウンターに陣取って
女性でこれだけ召し上がる方も珍しい、と板さんが彼と笑い合う程よく食べた。
そう、私は良く食べる、笑
そんな私を、彼は笑って見ていた。
近隣の市の、有名小料理店では個室に入り、常連さんになった。
金目鯛の煮付けが超美味しい、笑


3年近く続いた。
雀荘でも、周りの人々の口の端にのぼるようになった。
よくできた奥さんがいるのに、とか、ひどい女だ、と言うような陰口も耳にした。


彼が時折、先に進みたいというような内容の話をし出した。
無理。
適当にあしらい、彼も引く。そんなことの繰り返し。
潮時を迎えていた。
ある夜、車の中で彼は、はっきりと口に出した。したい、と。
私ははっきりと断った。
いきなり泣き出した。
私の車だったので、彼は泣きながら降りた。
彼の車の置いてある私の店までは歩くと小一時間かかる距離。厳冬。
無理矢理車に乗せ、店まで送って、別れた。
付きまとわない、という言葉通り、その後はなかった。
雀荘にも顔を出さなくなった。その後音沙汰はない。
いつも剽軽な彼のいきなりの涙。


だって、無理なものは無理。
その気になれば知り会ったその日でもできるが
その気にならなければ、何年付き合ってもどんなに良くしてもらっても、できない。
あんなに良くしてもらったのに?
そういう問題ではないのよ。
心は心で勝手に決める。けっこう残酷。


やっぱり傍目には
利用するだけ利用して捨てたひどい女だ、か?


彼の訃報でいろいろな思い出が去来した。
遅すぎる懺悔。

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